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世界をよくするには、どうしたらよいだろう。世の中を変えるなんて、まだ子どもで、世間のことを何もわかっていない私に問われたとしても、どうすることもできない。私には何の力もないのだから。
しかし、三人の中学生は、通称「残念な町」と言われるクリフ・ドネリーを確かに変えた。
好奇心は旺盛だけど、世間知らずなアーネストは、あまり物事を深く考えず、突っ走って周りを巻き込む。ライアンは、厄介ごとに巻き込まれないようにしているつもりが、結局のところ困っている人を助けてしまう。他人に関心がないように見えているが、本当は誰よりも優しい。優しい気持ちの出し方が、少し下手なだけだ。リジーは聡明で、愛情が深い。自分のことは何をされたって我慢できるけれど、大切な人を侮辱されたとき、きちんと怒れるリジーはとても素敵な女の子だ。
祖父の死に際に屋根裏部屋の整理を頼まれたアーネストは、二人を巻き込みながら願い事が叶うと言われる「トンプキンス井戸」の底にたどり着く。偶然願い事を聞いてしまった三人は、町の人のささやかな願いが叶うきっかけを次々と作っていた。私は、家族にいつまでも子ども扱いされて腹を立てているアーネストに、自分と近いものを感じた。家族の難しい相談事は私にはされない。そんなとき、少し疎外感を感じてしまう。一人前として扱われないのを誰かに見られるのも恥ずかしい。だから、同じように感じているアーネストに親近感をもっていった。
しかし一方で、アーネストは私に足りないものをもっていた。それは行動力だ。私も、「誰かのために何かをしたい」という気持ちは常にある。しかし、いざそういう機会があっても、なかなか行動に移せない。余計なお世話だと思われたり、やりすぎてしまったりするのではないかと考えて、なかなか一歩踏み出すことができない。けれど、アーネストは違う。自分の行動がどんな結果になるかわからなくても、やろうと決めたことはとにかく行動してみる。私は、なんの迷いもなくやるべきと思ったことをやれるアーネストをうらやましく思った。
三人の行動は、トンプキンス井戸で祈る人たちの願いを叶えるきっかけとなった。願いが叶ってほしいという小さな思いやりの気持ちと行動が、人と人とをつないで思わぬ偶然を生み、願いを叶えていく。願いが叶うのは魔法のような不思議な力ではない。それは優しさと偶然の連鎖が起こした「奇跡」なのだと思う。
そんなトンプキンス井戸の優しい奇跡が、アンドレアの明確な悪意によって世間にさらされそうになった。自分がのし上がっていくためには、事実をほんの少し入れただけの都合のいい記事を平気で世の中にまき散らす。そんなアンドレアを、私は唯一好きになれなかった。三人の中学生の行動が、周囲の人に優しい奇跡を起こしていくのと対照的に、彼女の記事は、不特定多数の醜く無責任な興味と関心をあおっていく。都合よく書き換えられた身勝手な記事は、その記事に関わる人たちを容しゃなく傷つける。誰かの望みを叶えるために、他の誰かが不幸になるなんて、絶対にあってはいけないことだ。
アーネストたちがトンプキンス井戸の奇跡をアンドレアの悪意から守るためにしたのは、「願う」ことではなく「行動する」ことだった。そして行動を起こした三人を守ろうとアール先生たちも動いた。ただ願って待つのではなく、希望を信じて自らが切り開いていくことで、その想いは繫がっていった。想いの連鎖が人と人をも結び付けて、悪意から井戸の奇跡を守ったのだ。
アーネストたちだって、町をよくしようとか、世の中を変えようなんて思ってはいなかったと思う。でも、身近な誰かに幸せになってほしいという小さな希望が、優しい気持ちと結びついて動き出していった。奇跡をもたらすのは、井戸に投げ入れるコインでも、町に伝わる伝説でもない。人が相手を思う気持ちこそが、奇跡に繫がるのだと思う。優しい気持ちは連鎖し、「残念な町」だったクリフ・ドネリーに広がった。ひとしずくの小さな希望が、町に自信と誇りを取り戻させた。クリフ・ドネリーを残念な町だと思う人はもういないだろう。アーネストたちの願いが、彼らの世界を変えたのだ。
私一人では世界は変えられない。でも、誰かの幸せを願う思いを行動に移すことができれば、その願いは連鎖し、奇跡に繫がることを知った。すべての人の願いを叶えることなんてできないけれど、私は、私にできることをしよう。願えば、私の希望は誰かの思いと連鎖して、幸せに繫がるかもしれない。ささやかだけど、そうやって小さな奇跡が重なっていく。だから私は、いつも誰かのことを思い、行動する勇気をもとうと思う。ひとしずくの希望で、世界は変わっていくのだから。
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●読んだ本「希望のひとしずく」(理論社)
キース・カラブレーゼ・著 代田亜香子・訳
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