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私は、ピアース家の主人公と同じ三人きょうだいで、ウィリアムと同じ一番上の12歳。毎日学校の図書館に通い、本のない生活は考えられない私は、この本の題名と表紙を目にして、手に取らずにはいられなかった。生まれて初めて涙が止まらず、こんなに胸が締めつけられ、主人公と一心同体になった本は今までに出会ったことはなかった。
この本は、1940年6月、第二次世界大戦下のロンドンで、唯一の肉親の祖母を亡くした三人のきょうだいが、後見人になってくれる家族を求めて、疎開していく物語である。ナチスドイツに怯えながら、子供と大人が今を懸命に生きる様子が書かれている。1940年は、ナチスドイツが強制収容所を作った年でもある。私は、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所やアンネ・フランクの家を訪れたことがある。そこで、何の罪もないユダヤ人や他の理由で多くの人が残虐な目に遭ったことを知り、恐怖で震えが止まらなかった。そのような真実が分からず、当時、今のような情報網がない中で、小さな三人は、大人から得る少しの情報から想像をふくらませ、さらなる恐怖を感じていたはずだ。
その中で三人は「夜空に輝くお月さまのよう」とお母さんと同じように思ってくれる新しい家族を探していた。三人は、特別ではなく、「優しさ、思いやり、温かさ」というごく当たり前の愛情だけを求めていたのに、疎開先では、期待を裏切られ続けた。しかし、希望だけは持ち続けていた。私は、三人が強い絆で結ばれ、思いやりで溢れていることに感動した。特にウィリアムの弟妹を守る姿は、母の愛情を受け継いだように感じた。そんな三人が図書館のミュラーさんに信頼を寄せていくのと同時に、ミュラーさんも、夫がドイツ人というだけで偏見に遭い、心が傷ついていたところに、「暗闇をてらしてくれるお月さまみたい」に三人が現れたのである。図書館という四人が安心できる場所で、本を通して愛情を伝え合うことができている。「心に傷を抱えている」という共通点が、お互いの哀しみや寂しさを理解し、慰め合うことができたのだと思う。
この本は、家族や友達、先生という表面的な関係だけではなく、真の理解と愛情が家族を形作ることを教えてくれた。多様な家族の形がある今、大切な事を学べる物語だと思う。さらに、「本が持つ力の大きさ」も教えてくれた。本は、情報や教訓を与えるだけでなく、昔を今、今を未来に伝えてくれる役割もある。子供や高齢者には読み聞かせられ、目の不自由な人でも点字の本を読むことができる。物語の三人のようにお守りの役割もある。聖書のように人々の心の支えとして受け継がれている本もある。そして、太陽の下や微かな明かりでいつでも読むことができるのだ。今、様々な情報媒体があるが、こんなにも人に優しく、人に寄り添う本は、今後も大切にされるべきだと心から思った。
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●読んだ本「図書館がくれた宝物」(徳間書店)
ケイト・アルバス・作 櫛田理絵・訳
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