第69回高等学校の部 優秀作品

「「タガヤセ!日本 『農水省の白石さん』が農業の魅力教えます」を読んで」
 埼玉県立川越女子高 3年 迎里咲

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 高校に入学してすぐ進路希望調査があった。「どの学部でどんな勉強をし、どのような職業に就きたいのか。」基本消去法で考えがちな上、優柔不断な性格の私はなかなか一つにしぼりきれない。「迷っているなら好きな事や興味のある事から探すと良い」と助言を受け考えてみた。好きな事はパン屋巡り。パンに合う牛乳はもちろんのこと、具として組み合わされる新鮮な野菜や果物、肉、魚、チーズ等、どれも大好きである。また、デパートの食品売り場や物産展、農協の直売所からスーパーに至るまで、美味しそうな食べ物がずらりと並んでいる光景を眺めるのもこの上なく好きだ。「食べ物といえば農作物だから農学部、いや、農産物が実際に消費者に届く仕組みやマーケティングを学びたいなら経営学部や商学部だろうか…。」希望調査のたびにその時の気持ちの振れ幅で志望学部が変わるため「この子は一体何がしたいんだ?」と面談時に担任の先生に心配される始末だ。そんな「進路迷子」の私は、結局理系クラスから文転し、目下受験勉強中…なのだが、「農業」についてはずっと進路選択の根底にあるテーマだった。書店で「タガヤセ!日本」の本を見つけた時「農業の本だし、課題図書にしては珍しく文章が少なくて読みやすそう。」というのが率直な選書の動機だった。しかし、読み終えて思った。この本はニュータイプの課題図書だ。この本自体は「農業沼への道しるべとなるサムネイル集」であり、「詳しくはWEBで!」ではないが、本文の内容から「農林水産省公式YouTube BUZZMAFF」へと知らず知らずのうちに誘われるようにできているのだ。まず本書を読み、次に動画を一気見し、興味が高じ芋づる式に農林水産省発行の「食料・農業・農村白書」まで取りよせて読んでしまった。「日本初の国家公務員YouTuber白石さん」により、私は日本の農業の奥深さ、生産者、加工者、販売者、消費者のつながりと、それを支える農林水産省の仕事について深く考えさせられることになったのだ。

 日本の食料自給率はカロリーベースで37%。ほぼ輸入食料に頼る現状だ。気候変動や国際社会情勢のリスクが高まる現在、この先も安定的に輸入品が調達できる保証はない。国として食料安全保障を目指し国産農産物の消費拡大をPRしている。また、日本国内の生産基盤を強化し自給率の向上を目指すための取組も詳しく紹介されていた。「スマート農業」「六次産業化」「集落営農組織」「輸入原材料の国内転換」等、初めて知る事ばかりだ。

 「食料・農業・農村白書」の中に、私の住む埼玉県の小麦製粉工場「前田食品」の紹介記事を見つけた。以前は輸入小麦も扱っていたこの工場は、平成30年から取り扱う小麦の全量を国産小麦に切り替えた。国産小麦の価値向上と自給率向上に貢献し、美味しく安全な小麦粉を生産するためだという。また、同社が中心となり「埼玉産小麦ネットワーク」を設立。小麦粉を利用する加工業者や生産者と共に、交流事業や、新品種の開発研究も行っているという。その時私は思い出した。私の推しの地元のパン屋さんは「国産小麦」のパンを扱っていたはず。もう一度よく確かめたくなり店を再訪した。店には国産小麦を使用した何種類ものパンが並んでいた。いつも以上に説明書きを熟読したものの、どれも美味しそうで迷ってしまう。店主さんにお勧めのパンを尋ねると、「ハナマンテンブレッドが一番小麦粉の風味がわかりやすいですよ。」と教えてくれた。ハナマンテンとは坂戸の原農場で収穫された埼玉県産小麦であり、なんと、記事で読んだ前田食品の工場産だったのだ。家に帰りパンをじっくり味わって食べてみた。ほんのり甘くてしっとりふわふわ、米にも似たどこか懐かしい味わいに思えた。土と気候が同じだからだろうか。ますます興味がわき、パン屋さんのSNSも熟読してみた。県産小麦粉ハナマンテンは扱いが難しく、最初はなかなか理想の味を引き出せなかったという。工程の時間配分を工夫し何度も試作を重ねた結果、風味を最も引き出す製法にたどり着いたそうだ。「素晴らしい生産者の方が送り出してくれた粉に、あっと驚くくらい美味しいパンでお返ししたい。」と店主さんは語る。「地産地消の美味しさを届けたい。」という農家や工場や職人さん、携わる人々の思い。その思いは輪のようにつながり、私(消費者)のもとにも届く。知れば知るほど美味しさは増す。

 これらの「好循環の輪」を外側から支えるもう一つの大きな輪こそ「農林水産省」の仕事なのだ。「国産小麦供給円滑化事業」という国の施策がある。国産小麦に関わる事業者が安心して生産や販売事業を継続できるよう国として支援する制度だ。日本の農業が国にしっかりと守られ、私達が食に関心を持ち農業の持続可能性を後押しする未来は明るい。

 農業を取り巻く様々な輪のどこか一端に将来関わることができたら楽しいかも…。進路も耕してみたら、私にもほのかな光が見えた。

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●読んだ本「タガヤセ!日本 『農水省の白石さん』が農業の魅力教えます」(河出書房新社)
白石優生・著

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