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真っ白な背表紙に書かれた「和菓子のほん」という文字と、あわいむらさき色の丸くて小さな花。そのかわいらしさに吸いよせられるように私はこの本を手にとった。
「これが和菓子なの?」
今まで私が食べてきた和菓子といえば、どらやきやお団子など、おいしいけれども見た目はひかえめなものが多かったので、背表紙の美しい花が和菓子だとはそうぞうもできなかった。
本の中に登場する和菓子たちは、四季おりおりの日本のゆたかな自ぜんを表げんした美しい宝石のようだ。同じようなお菓子でも季節によって色合いやテーマが変わり、それにぴったりなロマンティックな名前がついている。そんなお菓子たちを見ていると私の中には次々とたくさんの思い出がうかんできた。
たとえば「みのりの秋」というクリの形のお菓子を見ると、家族でクリ拾いに行った時に見た、ハリネズミみたいないがから顔を出すツヤツヤ光るクリの実を思い出すし、「草ぼたる」というお菓子を見ると、小川のそばの草かげで友だちがつかまえて見せてくれた黒くて小さなホタルを思い出す。
和菓子には、手にとった人それぞれのなつかしい記おくや、大切な人とすごした楽しい思い出、大好きな風けいをよび起こすまほうがかかっているようだ。そう思った私は自分でも和菓子を作ってみたいと思うようになった。
はじめは、きれいな花の形の「ねりきり」を作りたいと思ったが、それには先の細い特別なハサミや三角べらという見た事のない道具がひつようと書かれていたので、母と相談して図書館でかりた本の中から「えだ豆あんのくずまんじゅう」を作る事にきめた。
あん作りは大変な手間だったし、水でぬらした手の上で熱いくずであんをつつむ作ぎょうはなかなかコツがつかめず悪戦苦闘した。苦ろうのすえに出来上がった和菓子に、えだ豆あんの緑を夏草に、すき通ったくずを川の水に見立てて「涼草」と名前をつけて、家族や友だちにふるまった。実さいに作ってみると、美しい和菓子はしょく人さんたちの高い技じゅつに支えられている事がよく分かる。
本を読む前は、クリームやフルーツではなやかにデコレーションされた洋菓子ばかりをかわいいと思っていたが、小さな和菓子の中にギュッとつめこまれた季節の物語や、しょく人さんたちの細やかな心づかい、高い技じゅつに気づき、和菓子の世界はなんて美しく、おくがふかいのだろうと思った。
私の好きな清少納言の『枕草子』には「いとをかし」という言葉が出てくる。はじめは「お菓子のこと?」と思ったけれど「とてもおもむきがある」「とてもかわいらしい」という意味なのだそうだ。意味もひびきも和菓子にピッタリな言葉だと思う。
和菓子の世界、いとをかし。
和菓子の中に美しい日本をかんじた。
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●読んだ本「和菓子のほん」(福音館書店)
中山圭子・文 阿部真由美・絵
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