第68回小学校高学年の部 最優秀作品

「強い思いが原動力」
 東京都板橋区立志村第三小学校 6年 水谷日菜美

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 理想の自分、理想の社会…理想を語るのは簡単だが、それを実現することは難しい。しかし、田村さんは理想を理想で終わらせず、現実にすることができたのだ。

 私は以前SDGsについて調べたとき、世界の環境を守るために使わないときは電気を消すと決めた。しかし、その簡単なことさえ継続できていない。一回くらい大丈夫、誰かがやってくれると、心のどこかで言い訳をしていたのかもしれない。後回しにしていたら、環境は一向に良くならない。そして、理想が実現できないままだ。では、田村さんと私はどこが違うのだろうか。

 「捨てないパン屋の挑戦」に紹介されている田村さんは、自分の理想とする、環境にやさしいパン屋を実現できた人だ。田村さんは、人や環境への影響、安全性を考え、材料や焼き方、種類、一つ一つを見直した。人気のあったパンに使われている材料が環境に良くないとわかると、売るのをやめた。そのため、それまで買いに来てくれていたお客さんが来なくなり、仕事仲間が辞めていった。理想と現実のギャップに何度もぶつかったが、それでも、最後まで諦めなかった結果、思い描いていたパン屋を実現させたのだ。

 私だったら、いくら環境によいといってもお客さんや仕事仲間を失ってまで、わざわざ新しいパンを作ろうとは思わない。本を読みながら、何故そこまでして環境にやさしいパン屋になろうとしたのだろうか、これほどの困難に打ち勝てた原動力は何だったのかと考えた。読み終えて分かったことは、「生き物が好き」という気持ちが、田村さんの原点であったということだ。田村さんが幼い頃、大好きな生き物のすみかである裏山が突然壊された。それまで身近だった生き物たちが姿を消したことにとてもショックを受け、それからずっと環境問題に関わる仕事をしたいと強く思っていた。一見環境問題とは関係がなさそうな職業でも、材料、焼き方、働き方、一つ一つの選択と決定が、環境を守ることに繋(つな)がっている。このことから私は、理想を実現する原動力は、体験の中から生まれる「大切にしたいもの」や「守りたいもの」への思いだと考えた。田村さんと私の違いはここだ。

 こまめな消灯が環境を守ることに繋がると分かっていても行動を継続できなかったのは、田村さんのように守りたいものがはっきりとイメージできていなく、自分の行動が解決に繋がっている実感が無かったからだということだ。つまり、実際の体験が、思いを強くし、その思いが原動力になるのだ。

 理想を現実にするのは難しい。だが、体験を重ね、大切にしたいものや守りたいものへの思いを持ち続け、諦めずに努力していれば、理想を現実にすることもできる。そう、この本が教えてくれた。私がこれから、大切にしたいという思いの先に叶(かな)えたい夢ができたとき、この本から学んだ「強い思いが原動力」ということを生かし、理想を現実にしたい。

 

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●読んだ本「捨てないパン屋の挑戦:しあわせのレシピ」(あかね書房)
 井出留美・著

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