第67回小学校中学年の部 優秀作品

「カメムシが教えてくれたこと」
 鳥取市立賀露小学校 4年 河崎美空

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 冬、岩手は雪と氷に包まれる。私の祖母はこの本に出てくる葛巻町のとなりの町に住んでいる。寒い冬、小さな虫や、くまなどの動物達も冬眠する。冬に祖母の家を訪ねると、押し入れの中や、古い本だなにかくれんぼしている虫がいる。その虫こそ、越冬中のカメムシだ。上手に、家の中のあたたかくて、人に見つかりにくい場所にかくれている。

 でも、時々見つかってしまう。そんな時、祖母は、何かにのせたり、割りばしでそっとつかんだりして他の場所に連れていく。不思議な事に、カメムシのあのいやなにおいがしない。なんとなくそんなふうに感じていた。

 この本の中で、カメムシと上手につきあうコツは「やさしく、そっと」あつかうこと、カメムシに危険を感じさせないようにすればほとんどにおいをださないと、紹介されていた。祖母は、昔からのカメムシとの関わりの中で、共存すること、上手につき合うコツを自然に知っていたのだと思った。

 カメムシは、たしかにいやなにおいを出すこともある。だから、私はカメムシがあまり好きではなかった。でも、この本を読んで、他の虫達と同じで、色々な種類のカメムシがいて、私達と同じで名前があること、そして、カメムシも一生懸命生きていることを知った。みんなが苦手なカメムシのにおいも、生きるための一つの方法なのだ。今度出会ったら、仲良く同じ場所にいることが出来るような気がしてきた。同じ命のある生き物として愛おしく思える。きっと、そんな気持ちで、葛巻の小学校のお友達も「宝もの」と思えるようになったのだと思う。

 でもなぜ、校長先生は、他の虫ではなく、やっかいものである「カメムシ」を調べようと提案したのだろうか。私は、そこにこの本の本当の意味があるのではないかと考えた。

 そこで、まず気付いたことは、今の私の目線が全て、人間目線だということだ。カメムシから見ると、人間は大きくて力のあるこわい生き物かもしれない。カメムシにとっては、人間のにおいは、いやなにおいだと思っているかもしれない。そんなふうに考えていたら、楽しく思えてきた。カメムシに、人間は危険ではないよ、と伝えることができたら、カメムシもにおいを出さず、カブトムシのような人気者になれるかもしれない。

 私達は、カメムシというと、いやなにおいを出したり、作物についたりするというイメージが真っ先にうかぶ。でも、それはカメムシの一部しか知らず、見ていないからだ。

 校長先生はカメムシを通して、知ること、知ろうとすることの大切さ、様々な見方で物事を見たり考えたりすることの大切さ、そして、多くの個性を持った人や生き物と共に生きることの素晴らしさを伝えたかったのだと感じた。そのことを心にとめ、周囲をぐるっと見回した。あれっ、いつもと何かちがう気がしてきた。自分の心が変わると、いつもの世界もちがう世界に見えてくるのだ。

 

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●読んだ本
 「わたしたちのカメムシずかん やっかいものが宝ものになった話」(福音館書店)
 鈴木海花・文 はたこうしろう・絵

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