第67回小学校高学年の部 優秀作品

「幸せに生きることと心の在り方」
 奈良市近畿大付属小学校 6年 北村優季

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 私はこの本を読んで、幸せに生きるために大切にすべき心の在り方について深く考えさせられた。物語の中にある本の世界ファンタージエン国では、その世界に入り込んだ人の心が映し出され、心の闇に応じた試練と救いが与えられる。主人公のバスチアンは、現実世界でいじめ、母の死、父との関係から恐怖や虚しさ、絶望を感じていたが、それらはモーラの「世界は空虚で無意味で、本当の物や大事な事は一つもない。」という諦めの言葉や、虚無に襲われる現象で描かれる。私は物語に可視化された心の闇を知り、怖くなった。私にも気づいていない心の闇があるのかもしれない。バスチアンが虚無感や絶望感で気力を失ったように、心は生き方を左右し、その心が闇に侵されることの怖さと辛さを知った。

 バスチアンは物語の中で望みを好きなだけ叶えられる力を手にすると、初めは劣等感であった容姿を美少年にした。そのうち望みは、その国を征服するという欲になり友達までも傷つける。バスチアンが美しさの代償として本当の自分を忘れたように、自分本位で傲慢な欲に支配されると、喜びや心の痛み、感情を忘れてしまい自らを滅ぼすのだと思った。

 望みには、自分を愛する欲と誰かを愛する想いがあると思う。自分を高める欲は気持ちを前向きにするが、傲慢になると誰かを犠牲にする。一方、誰かへの想いは社会全体を良い方向へ進化させるが、時として自分を疎かにする。生きるためには欲と想いが必要で、天秤のようにつり合いが大事だと考えた。私は今、自動車や電気を使い快適で便利に生活している。その反面、地球温暖化や異常気象、コロナウィルスの猛威など地球は危機的状況にある。これらは人間の行き過ぎた欲の代償であり、他の生物や地球本来の姿を忘れて想いが欠けたせいである。今は欲に傾いている分、想いを強く持たないと地球は滅亡する。

 バスチアンが試練を乗り越え心の闇に打ち勝つために必要としたことは、あるがままの自分を認め愛することと、互いの価値を認め支え合う誰かを愛することである。物語にある「心の悦び」は愛する過程で欲と想いのバランスが取れた時に感じられ、それが生きる力となり困難を乗り越えるのだと思った。バスチアンの望み、愛、悦びで満たされた健やかな心が、現実世界を輝かせたのだ。

 私もファンタージエン国に行ってみたい。自分の心と向き合うことは怖いけれど、自分の弱さや大切さを知ることは幸せに生きるための第一歩だと思うからだ。私は自分をさらけ出して評価されることが怖い。だから、心を許し合える友達になることや、新しく挑戦することに臆病になる。でも、完璧ではない自分を認めて愛することができれば、友達との壁はなくなるし失敗を恐れずに挑戦もできる。心の在り方で、人生を幸せに変えることができる。私は、自分も他人も愛することができ、多様性のある社会や様々な生物が暮らす地球を想い、貢献できる人になりたい。

 

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●読んだ本「はてしない物語 上・下」(岩波書店)
 ミヒャエル・エンデ・作 上田真而子、佐藤真理子・訳

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