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わたしのながーい5分は、あの地しんの5分です。わたしの住む安平町は、おととし、大きな地しんがありました。胆振東部地しん。あの日のことを思い出すと、わたしは今でも泣きたくなります。家がゴーっと音をたて、たてにゆれ、何かがぶつかる大きな音と、ガラスが割れるするどい音。真っ暗な中、母がわたしと弟の上におおいかぶさり小さな悲めいを上げていました。長かったです。でもあとで聞いておどろきました。地しんはたったの15秒。そんなみじかい時間だったなんて。
家の中なのにくつをはいて逃げました。目をこらして家の中を見ると、黒い不気味なおばけがいるようでした。外も真っ暗。永遠に続くかと思いました。だから朝がきて、明るくなった空を見上げてなみだが出ました。当たり前にあった家、当たり前に来る朝。大切なものが、たった15秒でこわれたのです。
母は陶芸家でした。家族の食器、わたしが生まれたときの記念のお茶わん、すべて母の作品です。でも、食器だながたおれ、すべてが割れました。母は片付けながら、泣いていました。「また作ろうよ。」と声をかけると、「そうだね。」と言いました。でも、母は陶芸をやめて、ちがう仕事をしなくてはいけなくなりました。「生きているから大丈夫。」母が言いました。家族の時間は続いていきます。
大好きな動画があります。母が赤ちゃんのわたしをおんぶして、ろくろをひいている動画です。大きなねん土からシュルルとお茶わんが出来ます。動画は5分。ながーい長い地しんの15秒と、ろくろをひいてお茶わんを作るあっという間のみじかい5分。時間はこの本の通りいろいろあるんだよね。不思議だね。
わたしにはゆめが出来ました。陶芸家になるゆめです。わたしは未来の5分で家族のお茶わんを作ります。すべてをこわした15秒。でもその15秒でわたしと母のゆめは重なったのです。時間と同じくゆめも続いていきます。お母さん待っててね! 大切な約束の5分です。
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●読んだ本「ながーい5ふん みじかい5ふん」(光村教育図書)
リズ・ガートン・スキャンロン、オードリー・ヴァーニック・文
オリヴィエ・タレック・絵 木坂涼・訳
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