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砂漠の牢獄。刑務所のような村。それは、第二次世界大戦中に、アメリカで実際にあった日系移民の強制収容所でした。
私は、半世紀以上も前に、日本とアメリカが戦争をしたことは、知っていました。でも、知っていたのは「戦争があった」ということだけで、まさか、日本人で、しかも、私と同じくらいの小学生のマナミでさえも、住み慣れた場所から強制退去させられ、刑務所のような村に連れて行かれていたということなどは、全く思いもよらないことでした。
そして、アメリカで実際にあった日系移民の強制収容所の過去について知ることは、戦争が、いやおうなしに生んでしまう悲しみをはっきりと気づかせるものでした。しかし、それ以上に、私に迫ってきたのは、悲しみを悲しみで終わらせない温かさと強さでした。
マンザナの刑務所村に着いた時、マナミは声が出なくなっていました。突然の退去、愛犬トモとの悲しすぎる別れ――。声をも奪う悲しみ。マナミの心に、痛烈な悲しみが穴を空け、暗闇に引きずりこんだのだと私は思いました。悲しいのは、マナミだけではありません。マナミのお父さん、お母さん、兄のロン、おじいちゃん、友だちのキミ、そして、ロザリー先生。ひとりひとりに、悲しみがあったはずです。悲しみだけでなく、怒りも絶望もあったにちがいありません。
しかし、マナミを囲むすべての人たちに、温かく、前を向く力が感じられたのです。マナミのお母さんは「希望を持つのよ。」と、お父さんは刑務所村の鉄条網を前に「わたしたちが村を作るんだ。」と、おじいちゃんはふわふわの白い犬を抱いて「お前の心をもっと広げる。」と、そして、ロザリー先生は「あなたは勇気があるわ、あなたは強い。」と、マナミに静かに語りかけるのです。しかも、マナミにとって、本当に大切な一瞬を逃さずに。
戦争中の、しかも、刑務所村、つまり強制収容所のつらい日々は、悲しみ一色なのだろうと、私は思っていました。確かに、悲しみだらけだったはずです。しかし、そんな中でこんなにも温かく、力のある言葉が、マナミを、そして、人と人をつないでいることに驚かされました。私は、人には、悲しみを悲しみだけで終わらせない温かさと力強さがあることをマンザナに収容された人たちに教えてもらったのです。
本を閉じ、自分の身の回りに目を向けてみると、テレビや新聞のニュースでは、国同士の争いや悲惨なできごとが終わりのないかのように伝えられています。本当の悲しみや悲しみの中から生まれる温かさをみんなが知っていたら、このようなことは減っていくのではないかと、今の私は考えられるようになりました。この静かな決意のような気持ちを大切にしていきたいと思っています。
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●読んだ本「マンザナの風にのせて」(文研出版)
ロイス・セパバーン・作 若林千鶴・訳 ひだかのり子・絵
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