第65回高等学校の部 最優秀作品

「『共に生きる』ということ」
 東京都文京区・筑波大付属視覚特別支援学校高等部普通科 2年 近藤悠斗

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 「共に生きる」というのは、どういうことだろうか。近年、「共生」という言葉をよく耳にするが、どうすればそれが実現するだろうか。世界には、様々な人々が生きていて、私たちの違いは時として差別につながり、大きな隔絶となる。障害もその一つだろう。障害は障壁ではないという考え方は好きだが、視覚障害者として生活していて、「壁」を感じることは少なくない。そんななか、ネルソン・マンデラ著『自由への長い道 ネルソン・マンデラ自伝』を読んで、「共生」というもののイメージが鮮明になり、とても勇気づけられた。

 この本『自由への長い道』は、南アフリカに生まれ、アパルトヘイト(人種隔離政策)と闘って、人種融和に大きく貢献し、一九九四年に南アフリカで初の黒人大統領となった著者の自伝である。

 著者は、一九一八年七月、黒人居住地域のある村に生まれた。ミッション教育を受け、法律学を学んだ著者は、大都会のジョハネスバーグに移る。ここで、著者はANC(アフリカ民族会議)の活動に関わるようになり、人種平等実現のための闘争に全力を注ぐようになる。幾度の政府による自宅軟禁措置にも屈せず、差別に抵抗し平等を訴えて活動するなか、一九六四年に終身刑判決を受ける。その後、二七年間にわたって投獄されることになる。

 しかし、刑務所のなかでも、人種融和を目指す著者の精神は健在だった。度重なる差別的待遇に抗議し、獄中の同志と協力しながら、アパルトヘイトと闘い続けた。看守の差別意識のなかに人間性を見つけ、和解に努めようとした。多くの失敗はあっても、獄中で著者らは差別への小さな勝利を重ねていく。獄中生活の中、同志と切り離されたことをきっかけに、著者は政府との和解交渉に努めた。ついに、アパルトヘイトは撤廃され、一九九〇年、著者は釈放された。

 著者は白人を「対等な人」として見ている。この点が私は著者は本当に偉大であり、私たちは、そこから多くを学ばなければならないと考える。

 自分と相手を対等に扱うことは、とても難しい。特に、対立したり、理解し合っていない関係では、いっそう困難である。相手が自分に対して威圧的な態度をとれば、腹を立て、自分を相手よりも上の存在と見て、こちらも差別的に接しかねない。あるいは、自分の権利が侵害される状態に慣れ、自身の中で自分への差別が図らずも固定化するかもしれない。

 しかし、著者は、そのどちらでもなかった。著者は、この本の中で、白人を「肌の色の違う兄弟」と称している。その言葉のように、「違い」にとらわれることなく、両者が互いを尊重し合っていけるような関係を模索し続けた。両者が理解し合い、対等な人間として協力し合っていくことを目指した。私は、この著者の姿勢こそが「共に生きる」ことの本質ではないかと思う。

 世界的なインクルージョンの気運の高まりのなか、日本でも障害者の社会参加が進んでいる。インクルージョンとは、個々の多様性を受け入れながら発展していけるような社会を目指す理念である。しかしながら、私は、こうした共生社会を目指す動きのなかで、「理解の構築」という重要な課題が依然として残されていると考える。

 障害が正しく理解されることは難しい。人によって状態も異なる。しかし、私たちは障害があるかないかに関わらず、自分が自分なりの可能性をもち、社会の中で支え合って輝けることを知っている。そして、同じ人として本質的に、何も違わないということも。

 障害があるという事実だけが強調され、自分自身にほとんど注意が払われないことがある。「障害」によって、私たちが他の人と区別して見られることもある。しかし、こうした状況は、理解し合うことで改善されると考える。時間がかかってもあきらめず、互いを尊重し、協力し合っていこうとすることの大切さをマンデラは伝えているのではないだろうか。

 勇気をもって行動を起こすことの大切さもこの本から感じることができた。誤解や失敗を恐れずに互いに関わるなかで、支え合いながら生活していくことが自然になっていくと思う。違いだけでなく、互いの共通点も見えてくると思う。

 違いを尊重することは重要だが、それに固執したり、蔑視したりしてはならない。互いに理解し合おうと努めることが協力し支え合うことにつながり、本当の意味で共に生きていける社会が生まれていくことを、私はこの本から学んだ。勇気を持って一歩踏み出すことが世界をよりよい方向へ変えていくことにつながると考える。

 

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●読んだ本「自由への長い道:ネルソン・マンデラ自伝 上・下」
(NHK出版<原本>福島県点字図書館<音声デイジー作成>)
 ネルソン・マンデラ・著 東江一紀・訳

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