<読んで世界を広げる、書いて世界をつくる。>
外資系航空会社のキャビンアテンダント(CA)を経て、縁のなかったお笑いの世界に飛び込んだピン芸人、CRAZY COCOさん(37)。中学生や高校生に熱烈な支持を受けるラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」では、パーソナリティーの一人、「教頭」役としてリスナーの悩みに寄り添っている。30歳を過ぎてから、驚きの決断をしたCOCOさん。心の支えになったのは、読んできた本の存在だったという。
三浦研吾撮影
「本は好きです。読むときはしっかり、その本に向き合う時間がほしい」
COCOさんの毎日は忙しい。平日夜の「SCHOOL OF LOCK!」の生放送やテレビ番組の出演に加え、ネット交流サービス(SNS)で「日系CAと外資系CAの明らかな違い」などと題したネタ動画も発信。動画の案を練っては撮影し、例えば新幹線の中でパソコンなどを使って編集作業にいそしむ。芸人の仕事を始めてからは、本を読む時間がなかなかとれないのが悩み。そんな中で、たまの休日は「丸一日、カフェのテラス席で……みたいな読み方をしている」そうだ。
そんなCOCOさんの、幼い頃からの読書体験は――。小学生のときに好きだったのは、絵本「こまったさん」シリーズ(寺村輝夫作、岡本颯子絵・あかね書房)。一人っ子のCOCOさん、親が家にいないとき、時間をつぶす「相棒」は本だった。大学時代は、友人の一人に東野圭吾さんの熱烈なファンがいて「変身」(講談社)を仲間同士で回し読みすることに。「全員が『面白い』って言うから」読み始めたら、はまった。それから、東野さんの作品を自分で買って読むようになった。
社会人になって、当時の彼氏が持っていた「嫌われる勇気」(岸見一郎、古賀史健著・ダイヤモンド社)が自身を変えた一冊という。心理学界の巨匠アドラーの学説を、哲学者と若者の会話というスタイルで解説した本だ。
「『人と比べなくていい』というところが腹落ちしました。幼少期の体験や育った環境で人格が決定されると言う人もいますが、そうでもないんだなという気づきをくれた本で、今でも読み返しています。いろんな人に薦めたい本ですね」
「SCHOOL……」のリスナーたちにも、読書感想文の課題に挑む生徒は多い。番組では「教頭」役のCOCOさんだが、本音はこうだ。「私も嫌だったですもん。赤ペンでダメ出しされて(原稿用紙が)戻ってくるとか」。ただ、今は「先生」として「生徒」にこうアドバイスする。
「頭の中で本の内容を理解したとしても、それを人に説明したり、文字に書き起こしたりすることは難しい。いいなと思って書き留めた言葉は、すでにインプットからアウトプットまでの流れができているから、意外とその言葉を忘れなかったりしますよね。読書感想文って、実はすごく将来の役に立つ。だったらやるに越したことはない。向き合い方を変えるとやる気が出るっていうことは、あると思いますね」
自身の体験も根拠になっている。外資系航空会社の入社試験を受けたとき、「最近感動した本について、英語で書いてください」という問題が出た。本を読んではいたが、いいなと感じた細かい部分は忘れていたうえ、アウトプットすることにも慣れておらず、舞い上がってしまったという。
「私自身、これまでにしてきたどの仕事も、どんなささいなことも、結局は自分の糧になったなって、37歳になった今、思います。(子供たちから見れば)人生の先輩がそう言ってるんだから、そうだよって伝えたいです」
今の子供たちにお薦めの本は何だろう。悩んだ後「あっ、そういえば」と一冊の本を挙げてくれた。
「あした死ぬかもよ? 人生最後の日に笑って死ねる27の質問」(ひすいこたろう著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。COCOさんは3年前の夏、新型コロナウイルスに感染。高熱が出て「死」を意識したのをきっかけに「本当にやりたいことをやろう」「人を笑顔にするエンターテイナーになろう」と、お笑いのコンテストにエントリーした。その頃、いとこから前述の本を薦められ、背中を押されたという。
「その本があったから強気でいられた。もっと早く(本に)出会いたかったし、知っておきたかったなと思います。読みやすいし、10代の皆さんにもお薦めですね」【浜田和子】
1986年9月6日生まれ。大阪府出身。大学卒業後、商社や外資系航空会社CAなどの職を経て、お笑いの道に進むと決断。2021年の「女芸人No.1決定戦THEW」(日本テレビ系)に出場した縁で、吉本興業に所属。著書に「元CA芸人CRAZYCOCOの夢へのフライト直行便」(ヨシモトブックス)。