<読んで世界を広げる、書いて世界をつくる。>
ラジオ番組「山崎怜奈の誰かに話したかったこと。」でパーソナリティーをつとめる山崎怜奈さん(26)は、豊富な知識を生かし、クイズ番組や教育番組などでも活躍している。山崎さんは「本は自分の輪郭をはっきりさせてくれる」と読書の魅力を語る。【文・長岡平助、写真・宮武祐希】
本好きで知られる山崎さん。物心ついたときから本がそばにあったという。「くれよんのくろくん」シリーズ(なかやみわ作、童心社)や「ミッケ!」シリーズ(ジーン・マルゾーロ作、ウォルター・ウィック写真、糸井重里訳、小学館)などの絵本にはじまり、小学生の頃は「図書委員で、貸し出しなどの仕事の合間に金子みすずさんの詩集や『かいけつゾロリ』シリーズ(原ゆたか作、ポプラ社)などを読んでいました」と振り返る。
これまで読んだ作品の中で印象深かったものの一つとして、山崎さんはピアノコンクールを舞台にした小説「蜜蜂と遠雷」(恩田陸著、幻冬舎)を挙げる。
「読んでいて頭の中で音楽が鳴るという体験に驚きました。紙の上で音楽を描き『音は想像で補ってください』という読者への委ね方もすごい。信頼関係がなければできないですよね」
「ジャンルを問わず、興味があれば何でも読む」という山崎さんは、ラジオのパーソナリティーをつとめるにあたり、読書が「生きている」と話す。「語彙(ごい)が増えますよね。ラジオでは極力優しい言葉を使っていきたいと考えているので、好きな言葉やしっくりくる言葉があると、マーカーを引くなどすることがあります」
しかし本を読むことの意味について尋ねると、「私は読書に意味を求めてはいません」と答える。「もちろん、何かを知りたい調べたいと読む本はありますが、そうでないものに意味は求めていません。ラジオで役立つ言葉を何か探してやろうという意味で読書をするわけでもありません。見つかればラッキーくらいの気持ちです。読書は娯楽ですから」
とはいえ本を読むことで、得られる経験はある。
「本を読み始めると最後まで読まなきゃと考える人が多いですが、自分に合わなければ最後まで読まなくてもいいのではないでしょうか。『自分に合わなかった』というのも経験です。合う合わないの経験を重ねることで、それまでふわふわしていた自分という人間の輪郭が、つかめてくると思います。だから『読んでやろう』と肩に力を入れる必要はないのでは」
もう一つ読書で得られるものとして、山崎さんは「世界の広がり」を挙げた。「人生は一回きりで、経験できる数は限られています。その中で、自分とは違う生き方、違う物事のとらえ方をする人たちの書いた文章を読むと、自分や他人、世界のとらえ方が広がるというか『肯定力』が高まりますよね。『そういう人もいるんだ』とか『こういう世界もあるんだ』と。自分への肯定力も高まるように思います」
これから読書感想文に挑む人たちに、山崎さんは「読書感想文は自分を語る練習になる」とエールを送る。
「例えば就職活動で書くエントリーシートなど、人生には自分自身を語ってプレゼンする場があります。読書感想文は読書を通して自分が何を考え思ったのかなどを読む人に伝えるという意味で、その練習になると思います」
話し言葉や「イライラ」「モヤモヤ」といった擬音の先にある細やかな考えや思いを、どう言葉に落とし込んでいくか。「大人になって、急にやりなさいと言われても難しいですよね」と山崎さん。
「特に日本語は『私は』『あなたは』といった主語があいまいなため、他人の言葉を自分のものにしがちというか、自分はどう考え思うのかを、はっきりさせにくいところがあります。だから今、自分の思いや考えを言語化する練習を、読書感想文を通してしているのではないでしょうか」
1997年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学卒業。2022年にアイドルグループ「乃木坂46」を卒業。著書に「歴史のじかん」(幻冬舎)や「言葉のおすそわけ」(マガジンハウス)がある。