◆毎日新聞2022年7月30日 全国版朝刊

無限、多様な本の世界 希望ともす言葉の力 俳優・阿部亮平さん

<読んで世界を広げる、書いて世界をつくる。>

 アイドルグループ「Snow Man」のメンバーで、俳優の阿部亮平さん(28)。理系の大学院を修了し、気象予報士の資格を持つなど幅広い知識で知られ、バラエティー番組やドラマなど活躍の舞台を広げている。阿部さんは「無限の想像力で描かれる本の世界は、読む人を大きく育てる」と読書の魅力を語る。【文・長岡平助、写真・手塚耕一郎】

 「子どもの頃から理系の教科が得意」という阿部さん。読書の原点を振り返り、2000年度の第46回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書「かずあそび ウラパン・オコサ」(谷川晃一作、童心社)を挙げる。

 「数字の1を『ウラパン』、2を『オコサ』といったふうに別の言葉に置き換える絵本です。小学1年生のとき、この本の読書感想文で何かの賞をもらった記憶があります。これをきっかけに数の単位に興味を抱き、小学生の間に無量大数までの単位を覚えました」

 最近は、もっぱら小説を楽しむという。「東野圭吾さんの作品が好きで、特に科学的なトリックが分かったときの快感がたまりません」と理系ならではの視点は健在だ。一方で、ある事件で犯人の疑いをかけられた主人公の逃走を描く「ゴールデンスランバー」(伊坂幸太郎著、新潮社)では、主人公に共感し涙を流した。

 「物語世界への没入感が、小説の楽しみです」

 時間を置いて同じ作品を、もう一度読むこともある。最近読み返したのは、高校生を主人公にした青春小説「夜のピクニック」(恩田陸著、新潮社)だ。

 「(学校の伝統行事で)1日、歩き続ける物語です。その極限状態の中で展開される人間ドラマがおもしろく、読み進む手が止まりません。学生のころ読んで、もう一回読んでみようと思い立ちました。大人になると、同じ作品でも感じ方が違うのが新鮮でした」

本の魅力を尋ねると、阿部さんは「現実世界を超える世界」とこたえた。

「科学者が新しく発見する宇宙や数などの真理は、初めからこの世界に存在したものです。それを長い年月をへて、科学者が今になって発見しただけです。ぼくはそこにおもしろさを感じます。一方で本の世界は、人間の想像力が続く限り、現実の世界よりもっと大きく無限に、多様に広がっています。そこが本の魅力であり、おもしろさではないでしょうか。また無限で多様な世界に触れることで、自分自身の内面の世界も無限に、そして多様に広がっていくように感じます」

もう一つ、本の魅力として「言葉」を挙げる。

「その著者ならではの言い回しや文体を知ることで、表現の幅が広がります。読書は、人の言葉を育てる行為ともいえます。そして本には、著者の願いや思いがこもっています。だからこそ本に書かれた言葉は、時に読む人の心に希望の灯をともしたり、背中を力強く押したりしてくれます」

◇書く経験は生きる

 小学生の頃から事務所に所属したが、長くデビューの機会に恵まれなかった日々を、さまざまな言葉に励まされたという阿部さん。本をはじめとする創作物の力を信じてやまない。7月から始まったドラマ「NICE FLIGHT!」では、自身と同じ気象予報士の資格を持つ航空管制官を演じる。セリフは専門用語が多く「トライアンドエラー、試行錯誤の繰り返し」だが、視聴者の心に響くものを残したいと意気込む。

 読書感想文に挑む人たちに向け、阿部さんは「言葉でまとめる経験は、必ず役に立つ」とエールを送る。

「手紙は読むよりも書く方が難しいように、自分の感じたことを文章にするのは難しいと思います。でも整理して文章にできるようになれば、将来自分が何かに悩んだり迷ったりしたとき、物事に対処できる根幹になります。今それを学べるのは、とてもすばらしいことだと思います」

おほんちゃん


■阿部亮平(あべ・りょうへい)さん

1993年生まれ。千葉県出身。上智大学大学院理工学研究科修了。大学在学中の2015年に気象予報士資格を取得。20年、Snow Manのメンバーとしてデビュー。22年、映画「おそ松さん」にグループで主演。TBS系「それSnow Manにやらせて下さい」、フジテレビ系「今夜はナゾトレ」などに出演。