◆毎日新聞2021年7月30日 全国版朝刊

親子一緒に物語の旅へ

<読んで世界を広げる、書いて世界をつくる。>

 読書の魅力を感じ、楽しく読書感想文に取り組んでもらおうと、毎日新聞社は6月27日にオンライントークセッション「直木賞作家・島本理生さんと考える『読書感想文』」を開催した。直木賞作家の島本理生さん、読書感想文指導のベテランで小学校教諭の博田かおりさんが読書感想文を書く意義や本との付き合い方を語り合い、小学生の保護者、教諭ら約230人が視聴した。司会は東京本社社会部の三木陽介副部長が務めた。【構成・山本有紀】

本との付き合い方や読書感想文の意義について語る作家の島本理生さん(左)と小学校教諭の博田かおりさん=毎日新聞東京本社で6月27日

——子どもにどうやって読書をさせようか悩む親が多いと思いますが、島本さんの小さい頃はいかがでしたか。

島本さん 私が子どもの頃はゲームや動画サイトなどの娯楽が今より少なかったこともあって、図書館は子どもにとって娯楽の一つだったんですよね。本好きの母に連れられ、保育園の頃から図書館に行っていて、勧められる児童書を読み聞かせてもらったり、読んだりしていました。帰りにいつも喫茶店でナポリタンやアイスを食べて。「図書館に行くのは楽しいこと」とすり込まれ、そこから本が好きになったように記憶しています。

おほんちゃん

◇メモ取り構成に生かす……教諭・博田かおりさん

教諭・博田かおりさん

——本が苦手な子には、学校でどのようにアプローチしているのですか。

博田さん 授業の中で図書館に連れて行くということがとても大事です。私の学校では、学校司書に本の紹介や読み聞かせをしてもらう時間をつくっています。子どもが興味を持った本を手に取るような工夫ができるよう、週1回の図書の時間で学校司書の力を大いに借りています。

——島本さんは子どもの頃、読書感想文はいかがでしたか。

島本さん 正直、あまり困ったことがないんです。今から思えば、保育園の頃から絵日記をつけていたおかげかな、と。その日に起きたことを文章にまとめ、感じたことを1、2行でも書く。その積み重ねが読書感想文にも役立ったんじゃないかと思います。でも、(自分の)子どもは感想文が苦手で、いざ書こうとすると、「何を書いていいか分からない」。なので最初は要約を書くことで慣れさせることから始めて……。私も苦労しています。

博田さん 本を読んで、いきなり作文用紙に書き始めることは大人でも難しいですよね。いろいろな視点から「自分はどう思ったのか」をメモに取るのが有効です。構成は、感じたこと、自分の経験、本から学んだことのバランスが大事なので、過去の優秀作品から読み取らせるように指導もしています。おうちの方にも同じ本を読んで感想を交わしてほしいです。あまり大人の意見は述べずに、子どもにどんどん語らせるのがポイントです。

島本さん 親が子どもの読んでいる本を一緒に楽しめれば、一番良いなと思います。やらなきゃいけないと思うと親も子どももつらいですけど、一緒に語り合えればそこから広がるのかなと思います。

おほんちゃん

◇毎日の積み重ね役立つ……作家・島本理生さん

作家・島本理生さん

——視聴者から「『なぜ読書感想文を書くの?』と聞かれたらどう答えますか」という質問が来ています。

博田さん 感想文を書かないといけないから本を読むのではなく、読んだ本に自分の体験と重なる部分を見つけられたら、それは貴重な体験です。「9歳のあなたが感じていることを作文に書き残しておくことは、大人になってから記憶に残ることでもあるし、あなたの人生をきっと豊かにしてくれるよ」と私は伝えます。

島本さん 一つの文章を読んで要約したり、全体を理解して自分の感情や考えを語ったりする機会は、社会に出てからすごくたくさんある。大きくなって、対人間にそれをいきなりやろうとすると、うまくいかず、誤解が生じたり、大きくつまずいてしまったりすることも。突然やろうと思ってもなかなか難しい。本を読んで感想を書くというのは誰も傷つけないことなので、本とのコミュニケーションの中でその訓練をしていってもらえたらな、と思います。

おほんちゃん


■人物略歴

島本理生(しまもと・りお)さん…1983年生まれ。10代でデビューし、「Red」で2015年に島清恋愛文学賞、「ファーストラヴ」で18年に直木賞を受賞。近著に「2020年の恋人たち」、「星のように離れて雨のように散った」。毎日新聞で「読書便り」を連載中。

 

博田かおり(はかた・かおり)さん…1977年生まれ。2002年、東京都公立小学校教員に。新宿区立津久戸小学校に赴任して学校図書館教育の基礎を学ぶ。司書教諭免許を取得し、学校図書館利活用指導や調べる学習の実践を重ねている。