◆毎日新聞2020年07月31日 全国版朝刊

「自分の一冊見つけて」憲法学者・木村草太さん

 日本国憲法をやさしい言葉で解説した「ほとんど憲法」の著者で、憲法学者の木村草太さん(40)。子どもの頃、ファンタジー小説を入り口に、本への関心の翼をぐんぐん広げていったという。「この夏、自分だけのお気に入りの一冊に出合ってください」と語りかける。【屋代尚則】

◇ファンタジー小説をきっかけに関心深め

 木村さんの憲法との出合いは、中学2年生の時。たまたま書店で「日本国憲法」が収録された本を手に取り、その条文を読んで「私たちが得ている自由の基礎は、ここにあるんだ」と感じた。以来、憲法や法律に関わる仕事を志したという。

 今、大学教員となり、多くの本を執筆しているが、今年2月には毎日小学生新聞での連載をまとめた「ほとんど憲法」(上・下巻、河出書房新社)を刊行した。「私たちには、どんな『自由』が保障されているの?」「教科書は、なぜ無料なの?」など、子どもに身近な話題から憲法を考えるユニークな本として話題になっている。

◇論理の大切さ知る

 多読家の木村さんが、本が好きになったきっかけは、ファンタジー小説。

 小学生の時に「クレヨン王国」シリーズ(福永令三さん作・青い鳥文庫)に出合った。「『まほうの夏』を読んでいて、あさがおの色をこんなに美しく表現できるのだ、と心ひかれたのを覚えています」

 その後、英国の作家、トールキンの長編小説「指輪物語」(評論社)のシリーズも次々に読み進め、読書の楽しみにどっぷりはまっていった。

 将棋好きとしても知られる。小学生の時には、棋士の小林健二九段が自らの対局を振り返った著書も読んだ。

 「将棋の指し手について、丁寧に、体系的に解説がなされていた。こんな指し方があるんだと感じました。これが、論理的な思考の大切さを知る出発点になった本だったかもしれません」と振り返る。

◇感じたこと書いて

 「僕は読書感想文を書くのは、比較的得意な方でしたが、先生が喜ぶ感想の正解を探そうとするあまり、読書そのものが苦痛になってしまう子どもも、少なくないと思います」

 そう語る木村さんのお勧めの感想文の書き方は、「自分が気になったことを掘り下げて書くこと」。

 例えば、木村さんが「指輪物語」を読んで気になったことは、作中に登場する「うさぎのシチュー」がおいしそうだということ。さらに、主人公が野宿する場面で枕がわりに使った木の根っこは、どのくらい硬かったのだろうか。雨の降る中で一夜を過ごすと、どれだけきつかっただろうか……。物語を読みながら次々に感じたそんな思いを、読書感想文に詳しく書き込んだそうだ。

 「先生も、似たような感想文を読んでも面白くない。こんな考え方があるんだというのを、先生だって知りたいはず。こんなことを書いたら変じゃないかなんて思わずに、どんどん書いてください」と力を込める。

◇夏休みはいい機会

 読書の夏--。木村さんがこんなメッセージをくれた。

 「夏休みはまとまった読書の時間を取るにはいい機会です。このチャンスを逃さず、『自分の一冊』を見つけてください。たとえ親にられようと、寝ないで読みたくなるような、そんな魅力的な本に、ぜひ出合ってください」

◇図書館、多彩な魅力ある

 「図書館は魅力にあふれた場所です」。木村さんは力説する。

 母親が図書館司書だったこともあり、図書館はずっと身近な存在だった。高校生の時には、家と街の図書館を往復する定期券も買ってもらい、毎日のように通っていたそうだ。

 「図書館には、最新の情報が載った新刊書もあれば、古代ローマや日本の平安時代に書かれた本もそろいます。いろいろな時間を一望できるのが魅力だと思います」

 本のほかにも、図書館の楽しみ方があるという。

 例えば、建築家の故前川國男による設計で知られる神奈川県立図書館(横浜市)。ガラス張りの壁から緑の庭を一望できる閲覧室が好きだった。「街の図書館から、雄大な時の流れや、空間としての魅力を感じてください」

おほんちゃん


■木村草太(きむら・そうた)さん略歴

1980年、横浜市生まれ。東京大学法学部卒。同大助手などを経て、東京都立大法学部教授。「自衛隊と憲法」(晶文社)や、法学に興味を抱く高校生を登場人物にした「キヨミズ准教授の法学入門」(星海社新書)など著書多数。中学生と小学生の子どもの父親でもある。