◆毎日新聞2019年6月6日 全国版朝刊

「好奇心 膨らむ楽しみ」俳優・菅田将暉さん

 テレビの平成仮面ライダーシリーズ「仮面ライダーW」(2009年)の主演などを皮切りに、多くの映画作品で受賞し、人気と実力を兼ね備えた俳優の菅田将暉(まさき)さん。7月26日公開の大作映画「アルキメデスの大戦」でも主人公の天才数学者役を務め、数学で戦争を止めようとした男をさっそうと演じている。今や若手男優のトップを走る菅田さんだが、学生時代の読書感想文については「本を読むのは得意じゃなかった」と意外な面を語ってくれた。【鈴木隆】

◇星新一さんがきっかけ

 「(子供の頃は)本というより漫画ばかり読んでいた」。菅田さんも、本が苦手の少年だった。そんな時に、父親から「これだったら、読みやすいよ」と薦められたのが、星新一さんのショートショート。短編がたくさん集まっていて、短いのは2、3ページで1編のものもあった。小学校の高学年の時だった。「展開が分かりやすいし、普通の生活の中にあるファンタジー。宇宙人(みたいな人)も出てきて、子供だったから登場人物をイニシャルで呼ぶ言い回しも好きで、読んでて情景が浮かびやすかった」

 読書感想文も不得手だったが、「それでも、本を読み始めると子供の想像力ってすごいから、没頭した記憶がある。活字というだけで食わず嫌いだったんでしょうね」。星さんに出会ってからは、感想がすらすらと書けるようになった。作文もそれまでは、ただただ事実を書いていただけだったが「気持ちが入るようになり、母親からほめられた」と笑みを浮かべた。「星さんの世界は、読んでいるうちに自分が興味を持てる世界、好きな世界だったのだと思う。映像も感情も自然に頭の中に出てきました」。この感覚、感性は、現在の俳優という仕事にも通じる「大事なもの」と話した。

 人気シリーズ「ズッコケ三人組」にも熱中した。テレビドラマや映画、アニメにもなった全50巻のシリーズ。クラスメートで仲の良いでこぼこ3人組の話で、読書感想文でも取り上げた。「3人の物語から、自分だったらこうした、みたいなことを書いた。映画『スタンド・バイ・ミー』の規模の小さい話のイメージで、群像劇が好きだったのかも」と振り返った。

 これまで共演した多くの役者が菅田さんの「集中力」を絶賛する。「アルキメデスの大戦」のベテラン俳優もしかり。その集中力の高さは10代の読書体験からもうかがえる。「ズッコケ三人組も純文学も一緒。知的好奇心なんですね。興味がわくと好奇心が旺盛になる。今の時代は、調べればインターネットなどですぐに教えてくれる。その人を演じようとしたら、興味を持たないとダメ。『戦艦大和』のサイズとか。音楽を始めたきっかけも好奇心。人とのコミュニケーションも同じ」と歯切れがいい。

◇家では「飽きる」禁止

 それに根気が加わった。菅田さんの家族は「飽きる」という言葉は禁止だった。ピアノ、サッカー、水泳、英会話と多くの習い事をしてきたが、どこまでやるか決めて、そこまでは絶対にやるのがルールだった。「両親のおかげです。途中で投げ出したくなっても、母親からクビをつかまれて……。例えば、水泳でバタフライを覚えるまでと決めたら、そこまではきちんとやるとか」と頬をゆるめた。星さんの本も、1冊集中してずっと読む。好きなものが見つかったら、それに集中する。「今も変わっていません。俳優の仕事でも、音楽でも、本に対しても」。菅田さんの大きな魅力の一つになっている。

 言葉についてはより繊細だ。俳優、音楽、ラジオなど、どの仕事においても「言葉は大事だし、好きです」と真剣な表情で語る。「本を読んでいても、ピッとくるもの、この表現いい、使いたい、と思うことがよくある」。又吉直樹さんの「火花」では、普通の人が気づきにくい日々の暮らしを、ロマンチックに面白く書いている記述にひかれた。印象に残っている本では早川義夫さんの「たましいの場所」が生み出す景色。一人でやっている本屋やコーヒーの匂い、周囲の人との関係性を大事にしていることが伝わり、心に響いたという。

 最後に、読書感想文に悩む学生の皆さんにメッセージを語ってくれた。「僕も感想文は苦手だった。本に書かれていることに何か興味が持てればいい。好きなジャンルやものから本の世界に入っていけば、楽しみが膨らんでいくのでは」と話した。

おほんちゃん


■菅田将暉(すだ・まさき)さん略歴

1993年、大阪府生まれ。2009年に平成仮面ライダーシリーズ「仮面ライダーW」でデビュー。映画は13年の「共喰い」に主演し絶賛される。それ以降、「そこのみにて光輝く」(14年)、「ディストラクション・ベイビーズ」「セトウツミ」「溺れるナイフ」(16年)、「帝一の國」「キセキ―あの日のソビト―」(17年)など受賞多数。若手実力派として頭角を現す。「あゝ、荒野」(17年)で毎日映画コンクール男優主演賞などこの年の映画賞を総なめにした。19年は「タロウのバカ」も9月6日公開予定。ミュージシャンとしての活動でも人気が高く、舞台、CMなど多方面で活躍中。