63回目を迎えた青少年読書感想文全国コンクール(主催・全国学校図書館協議会、毎日新聞社)が開かれる。幼い頃から大の本好きだったという映画監督の松江哲明さん(39)に読書の楽しさについて大いに語ってもらった。【木村光則】
幼い頃から本が好きで図書館に入り浸っていたという松江さん。「母が本の読み聞かせ教室に連れていってくれて、自分でさし絵を描いた絵本を作り、読んでくれた」と振り返る。映画監督となった今も本は手放さず、「外国に行く時も、1日1冊分持って行き、読み終わると荷物になるので捨てる。特に好きなノンフィクションを中心に週に2〜3冊読む」と話す。
子供の頃はファンタジーが好きだったが、だんだんノンフィクションにひかれるように。中高生になると実際に起きた事件の実録本などを読むようになった。「現実に起きたということがリテラシーの上で本に入り込める要素。地名があることで頭に入ってくる。人間のドロドロした話にひかれるようになった」と話す。
こうした読書傾向の変化をもたらしたのが、実はドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデの「モモ」「はてしない物語」「サーカス物語」などの諸作品だという。「エンデは、ファンタジーが必要なのは人が生きていくためだと考え、空想を現実に返していく。空想を通じて、現実を変え、現実社会で強くなれる」とその魅力を語る。
現実世界に力を及ぼすエンデの物語を読み続けた結果、「普通の空想話をうそ臭く感じるようになってしまい、ノンフィクションに向かった」とその影響を語る。それはドキュメンタリー映画作家としての歩みにもつながっていった。
ドイツ人の妻との間に1歳9カ月の長男がおり、母がしてくれたように本の読み聞かせをしているという。「ひざの上に乗って興味深く聞いてくれる。今はまだ絵本の『だるまさんが』シリーズとか、仕掛けのある本を読んでいるけど、実はエンデの本を再度買いそろえて息子の近くに置いている」と明かす。
「僕が映画好きになったのは、父が家に映画のパンフレットをたくさん置いていて、子供の頃から見ていたから。息子もエンデの本を理解するにはまだ時間がかかると思うけど、何だろうと思って手に取ってくれたら」と期待する。
また、妻が日本の絵本の「めっきらもっきら どおんどん」といった呪文のような言葉を面白がって息子に読み聞かせし、ドイツ出身のエンデについて夫婦で語り合うなど、読書は松江さんにとって家族の絆を深め、息子の成長を確かめることにつながっているようだ。
ただ、これだけ読書が好きな松江さんも小学校時代から国語や作文の成績が悪く、深く傷ついてきたという。「『作者の気持ちを考えなさい』という問題が出ると、選択肢全部が正解に見えてしまう。抜粋した文章を読むと、その前後の文章が気になってしまう」と理由を語る。
文章を書くのも苦手だったが、デビュー作で賞を取った時に寄稿を求められ、「自信がなかったけど、『自分の思ったことを書けばいい』と言ってもらい、思い切って1,000字書いた」ことをきっかけに道が開けた。今では雑誌に連載を持つほどだ。
若者たちには、「好きなことは評価されるものではないから、たとえ感想文が評価されなくても気にしないでほしい。けど、その本を好きだという思いだけは絶対疑わないで。その文字数だけ、自分の書きたいことがあったということを大事にしてほしい」とメッセージを送る。
そして、独自の感性を大切にしてほしい、と訴える。「僕も文章を書いたり、映画を撮ったりして一番うれしいのは、本人も気付いていない無意識の部分に読者や見る人が気付いてくれた時。そんな時に、書き手と読み手の幸せな関係性が生まれるのだと思う」と読書の真の魅力を語ってくれた。
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■人物略歴
◇松江哲明(まつえ・てつあき)さん……東京都出身。日本映画学校(現日本映画大学)に入学し、卒業製作として撮った「あんにょんキムチ」が1999年、山形国際ドキュメンタリー映画祭のアジア千波万波特別賞を受賞。現在、最新作「映画 山田孝之3D」が全国公開中。